カテゴリー:企業法務・顧問/執筆:弁護士 宮本和弥/最終更新日:2026年10月22日
この記事の要点
- まず、賃貸借契約書の転貸・同居・表示の禁止条項と、賃貸人の承諾書面の有無を確認してください。
- 承諾のない転貸は解除理由になります。ただし、信頼関係を壊すとはいえない特段の事情があれば、解除は認められません。
- 子会社を置くことが当然に転貸になるわけではありません。ただし、子会社も別の会社なので「第三者」に当たり得ます。区画や使用料などの使い方を見て判断されます。「同居」の承諾が「転貸」の承諾とみられるとは限りません。
- 複数のフロアを別々の契約で借りていれば、1フロアの違反が当然に他のフロアの解除理由になるわけではありません。ただし、契約どうしの関係や、更新拒絶の場面では影響し得ます。
- 完全子会社に無償で使わせると、税務上、寄附金に当たるおそれがあります。税務は必ず税理士にご確認ください。
民法では、無断の転貸はどう扱われますか
賃貸人の承諾なく転貸すると、契約を解除されるおそれがあります。ただし、賃貸人との信頼関係を壊すとはいえない特段の事情があれば、解除は認められません。
原則:承諾がなければ転貸できません
民法612条1項は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借物を転貸できないと定めています。ここでいう転貸は、第三者に独立して使用・収益をさせることです。賃借人自身の使用と同じとみられる場合は、転貸に当たりません。
承諾がなければ解除できますが、例外があります
民法612条2項は、承諾なく第三者に使用・収益をさせたときは、賃貸人は契約を解除できると定めています。
ただし、最高裁昭和28年9月25日判決(昭和25年(オ)第140号、民集7巻9号979頁)は、「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」があれば、612条の解除権は発生しないとしました。最高裁昭和36年4月28日判決(昭和32年(オ)第1087号、民集15巻4号1211頁)は、店舗の一部の無断転貸についてこの事情を認め、解除を無効としました。
契約上の同居・社名表示の禁止は、別に問題になります
オフィス賃貸借契約には、転貸とは別に、同居や社名表示を禁止する条項が置かれていることがあります。これは民法612条の転貸ではなく、契約上の約束の問題です。東京地裁平成30年1月23日判決(平成27年(ワ)第33560号)は、転貸を否定した上で、同居・社名表示の禁止条項違反を認めました。ただし、旧賃貸人の担当者が自ら郵便受けに社名を表示し、異議も述べなかったことなどから、「特段の事情」を認め、明渡請求を棄却しています。
子会社を同じオフィスに置くことは、転貸に当たりますか
当然には転貸に当たりません。ただし、使い方によっては転貸と評価されるおそれがあります。
裁判例では、次のような事情が考慮されています。ただし、一つの事情だけで転貸の有無が決まるものではありません。また、社名表示は、転貸に当たるかとは別に、契約の禁止条項違反として問題になります。
| 事情 | 同居にとどまる方向 | 転貸と評価される方向 |
|---|---|---|
| 区画 | 区切りなく机を並べている | 壁やパーテーションで区画している |
| 使用料 | 支払がない | 使用の対価として支払っている |
上記東京地裁平成30年1月23日判決は、関連会社が区画を設けずに机4つ程度を使っていた事案です。独立した区画がなく、使用料の支払もないことから、転貸には当たらないとしました。
もっとも、同判決は、契約が禁じる同居・社名表示には当たり、書面による事前承諾もないとしました。転貸でなくても、契約の禁止条項に違反するおそれがある点に注意してください。
子会社は親会社のグループ内の会社です。それでも転貸になりますか
子会社も法律上は別の会社です。そのため、契約上の「第三者」に当たり、転貸や禁止条項違反と評価されることがあります。
子会社・関連会社も「第三者」とされた例
東京地裁平成24年12月20日判決(平成23年(ワ)第38753号)は、賃借人が全株式を持つ子会社2社に貸室を使わせた事案です。裁判所は、子会社も、書面承諾なく第三者に使用させることを禁じた条項の「第三者」に当たるとしました。
東京地裁令和3年8月10日判決(令和2年(ワ)第6697号ほか)は、ビル1棟を借りた会社が、互いに代表者を共通にする複数の法人に各階を使わせた事案です。賃貸人の事前承諾は認められず、無断の転借であるとして、背信的行為と認めるに足りない特段の事情も否定されました。
グループ会社であることが考慮された例
グループ会社であることが有利に働いた例もあります。上記東京地裁平成24年12月20日判決は、賃借人が子会社の株式を100%持ち、影響力を行使できたことや、通知後に営業を停止したことなどから、信頼関係の破綻を認めず、明渡請求を棄却しました。東京地裁平成28年1月25日判決(平成26年(ワ)第25879号)は、社名が表示されていた3社のうち、代表者が賃借人側の従業員である1社については、業務が賃借人の業務の一部を移したものだったことなどから、独立した使用収益は認められないとしました。他の2社も、使用が月数回程度にとどまるなどとして、転貸を否定しています。
借地の事案ですが、最高裁昭和49年3月22日判決(昭和48年(オ)第657号、最高裁判所裁判集民事111号457頁)は、子会社への借地権の無断譲渡について、別会社として経営されていることを重視して背信性を認めた原判決を破棄しました。賃貸人に不利益を及ぼすかどうかを審理すべきだとしています。
このように、子会社であることだけで結論は決まりません。子会社が自社の事業のために使っているのか、賃借人の業務の一部として使っているのかなど、実態によって判断が分かれます。
子会社から使用料を受け取ると、何が変わりますか
使用料が使用の対価といえる場合は、転貸と評価される方向に働くおそれがあります。
民法601条は、物の使用・収益をさせ、相手方が賃料を支払い、契約が終わったら物を返すことを約束する契約を、賃貸借と定めています。使用の対価の支払は、賃貸借の中心的な要素です。
名目は問われません。東京地裁令和3年4月8日判決(平成30年(ワ)第18886号)は、「業務委託」の形で受託者が自己の計算と裁量で店舗を経営し、売上にかかわらず一定額を下回らない「基本使用料」を受け取る仕組みを、転々貸と評価しました。ただし、賃貸人の承諾の範囲内であるとして、無断転貸には当たらないとしました。
ただ、使用料を受け取っていることだけで、転貸かどうかが決まるわけではありません。区画や鍵などの使い方も含めて判断されます。使用料を受け取る予定がある場合は、事前に弁護士にご相談ください。
パーテーションや鍵で区切ると、不利になりますか
区画や鍵によって子会社が独占的に使える状態であれば、独立した使用と評価されやすくなります。
最高裁昭和42年6月2日判決(昭和41年(オ)第1426号、民集21巻6号1433頁)は、建物の一部でも、障壁等で他の部分と区画され、独占的・排他的な支配が可能な構造・規模があれば、借家法上の建物に当たり得るとしています。(なお、これは借家法上の建物該当性についての判断であり、転貸の有無を判断したものではありません。)
転貸を直接判断した例として、東京地裁平成4年2月24日判決(平成2年(ワ)第10791号ほか、判例時報1451号136頁)があります。時間帯ごとに教室を貸していた事案で、借主が預かった鍵で自由に出入りし、それぞれの教室として独立して使っていたことから、転貸に当たるとしました。
区画がなくても、実際の使い方が考慮されます。東京地裁平成30年2月16日判決(平成27年(ワ)第33888号)は、関連会社が「4席だけ」と主張した事案で、応接室・会議室の使用、同じ電話番号、目立つ表札から、区画全体を賃借人と共同で占有していたと認めました。(なお、これは契約解除後の損害金請求に関する占有の判断であり、転貸の有無を判断したものではありません。)
複数のフロアを借りていて、子会社がいるのは1フロアだけです。他のフロアにも影響しますか
フロアごとに別の契約であれば、1フロアの違反が当然に他のフロアの解除理由になるわけではありません。
東京地裁昭和59年11月27日判決(昭和56年(ワ)第5463号、判例時報1166号106頁)は、使用目的の異なる隣り合う2棟を別々の契約で借りていた事案です。一方の契約で信頼関係が壊れても、それが当然に他方の契約の解除理由になるとは解されない、としました。同一ビルの1階と4階を別々に借りていた事案でも、東京地裁平成28年5月23日判決(平成26年(ワ)第10246号)は、看板設置や共用部分の使用等を理由とする解除の可否を、契約ごとに判断しています。
ただし、注意点が2つあります。1つは、同一当事者間の複数の契約が密接に関連し、一方だけでは契約の目的が全体として達成されない場合です。このような場合に、一方の不履行で他方も解除できるとした最高裁平成8年11月12日判決(平成8年(オ)第1056号、民集50巻10号2673頁)があります(リゾートマンションの売買とスポーツクラブ会員権に関する事案)。
もう1つは、1フロアでの違反が、更新拒絶や解約申入れの「正当の事由」(借地借家法28条)の判断で、「従前の経過」として考慮され得ることです。上記東京地裁昭和59年11月27日判決は、旧借家法下の事案ですが、他方の契約の解除は否定しつつ、この事情を「正当の事由」の判断で考慮しました。
「同居」の承諾をもらっていれば、転貸の承諾にもなりますか
同居の承諾が、そのまま転貸の承諾とみられるとは限りません。
東京高裁昭和29年10月23日判決(昭和28年(ネ)第1306号、東京高等裁判所(民事)判決時報5巻10号248頁)は、同居の承諾と転貸の承諾は法律上の効力が異なるとして、同居の承諾を転貸の黙示の承諾とは解せないとしました。合意解除や解約申入れによって賃貸借が終了する場合、同居人は当然に権利を失うのに対し、承諾を得た転借人は当然には権利を失わない、という違いを、例として挙げています。
どのような内容の承諾を得ておくべきかは、使い方や契約書の定めによって異なります。承諾書を取り交わす前に、弁護士にご相談ください。
使用料を取らずに無償で使わせれば、問題はありませんか
無償でも転貸に当たることはあります。また、完全子会社に無償で使わせると、税務上、寄附金に当たるおそれがあり、注意が必要です。
民法612条は、転貸が有償か無償かを区別していません。使用料を取らないことだけで、転貸に当たらなくなるわけではありません。
法人税法37条7項は、名義を問わず、経済的な利益の無償の供与を寄附金に含めています。オフィスの一部を無償で使わせることも、これに当たり得ます。法人による完全支配関係がある内国法人の子会社への寄附金は、子会社側で受贈益とされる部分について、同条2項により損金に算入されません。
ご相談について
当事務所では、子会社・関連会社の同居に関する契約書の確認、賃貸人との承諾交渉の支援、無断転貸を理由とする解除通知への対応をお引き受けしています。契約書と承諾書面をお手元にご用意のうえ、ご相談ください。
ご注意
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、弁護士にご相談ください。
本記事で紹介した裁判例は、分かりやすさを優先して、事案の内容や裁判所の判断を簡略化して説明しています。正確な内容は、各判決の原文をご確認ください。また、裁判例の結論は、それぞれの事案の具体的な事情を前提としたものです。似た事案に見えても、事情が違えば結論が変わることがあります。
税務に関する記載は、法人税法の一般的な仕組みを紹介するもので、税務上の助言ではありません。税務上の取扱いは事案ごとに異なり、法令や通達の改正で変わることもあります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士にご確認ください。
